細胞は高分子を分解しエネルギーを作ります。細胞呼吸は、高分子の化学結合から得られる食物エネルギーをアデノシン三リン酸(ATP)の形の化学エネルギーに変換する生化学的プロセスです。この厳密に制御された複雑なプロセスの最初の段階が解糖です。解糖という言葉は、ラテン語のglyco(糖)とlysis(分解)に由来します。解糖は、他の経路に供給するため、ATPと中間代謝物を生成するという細胞内で2つの役割を果たします。解糖経路では、1つのヘキソース(グルコースなどの炭素数6の炭水化物)が、2つのトリオース(ピルビン酸などの炭素数3の炭水化物)に変換され、正味2分子のATP(4つ生成して2つ消費される)と2分子のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)が生成されます。
解糖系は、最初に発見された生化学的経路であることを知っていますか?1800年代半ば、ルイ・パスツールは、微生物が酸素のないところでグルコースを分解する(発酵)ことを発見しました。1897年、エドアルド・ブフナーは、酵母細胞を破壊し、可溶性分子や細胞小器官を含む細胞質を回収することで、細胞でない酵母の抽出物でも発酵反応が行われることを発見しました。その後まもなく、1905年にアーサー・ハーデンとウィリアム・ヤングが、無機リン酸(Pi)を添加しないと発酵速度が低下することを発見し、発酵には熱に弱い成分(後に多くの酵素が含まれていることが判明)と低分子量で熱に強い成分(無機イオン、ATP、ADP、NADなどの補酵素)の両方の存在が必要であることを明らかしました。1940年までに、グスタフ・エルブデン、オットー・マイヤーホフ、ヤクブ・カロル・パーナスら多くの人々の努力により、解糖の完全な経路が確立されました。現在では、解糖系はEMP経路とは呼ばれていません。
グルコースは2つの方法で細胞に入ります。GLUT (glucose transporter) タンパク質と呼ばれる内在性タンパク質のグループを介した促進拡散により、グルコースは細胞質に取り込まれます。GLUTタンパク質ファミリーのメンバーは、人体の特定の組織に存在します。また、二次能動輸送で、膜貫通型のシンポートタンパク質を介し、濃度勾配に逆らってグルコースは輸送されます。シンポーターは、イオンを駆動する際の電気化学的エネルギーを利用します。例えば、小腸、心臓、脳、腎臓に存在するナトリウム-グルコース共輸送体などです。
有酸素(O2が豊富な状態)および無酸素(O2が不足した状態)の両条件下で、一度グルコースが細胞の細胞質に入ると解糖は始まります。解糖には主に2つの段階があります。第1段階はエネルギーを必要とするもので、準備段階と考えられ、グルコースを細胞内に捕捉し、効率的に切断されるように6つの炭素からなる炭素骨格を再構築します。第2段階は、エネルギーを放出し、ピルビン酸を生成する清算段階です。
酸素濃度やミトコンドリアの存在によって、ピルビン酸の運命は2つあります。ミトコンドリアが存在する有酸素条件下では、ピルビン酸はミトコンドリアに入り、クエン酸サイクルや電子伝達系(ETC)を経て、CO2、H2O、さらにはATPへと酸化されます。一方、無酸素状態(例: 働いている筋肉)やミトコンドリアがない状態(例: 原核生物)では、ピルビン酸は乳酸発酵を起こします(つまり、無酸素状態でピルビン酸は乳酸に還元されます)。興味深いことに、嫌気性の酵母や一部の細菌は、アルコール発酵で知られる過程を経て、ピルビン酸をエタノールに変換できます。
解糖系のように酵素で調節される代謝経路を厳密に制御・調節することは、生体が適切に機能するために重要です。その制御には、基質制限や酵素関連制御があります。基質制限は、細胞内の基質と生成物の濃度がほぼ均衡しているときに生じます。その結果、基質利用能がその反応速度を決定します。酵素関連制御では、基質と生成物の濃度が平衡から離れています。酵素の活性が反応速度を決定し,それが経路全体の流れを制御します。解糖系には、ヘキソキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの3つの制御酵素があります。