家系図とは、ある形質に関する家族歴を示した図です。家系図を分析することで、(1)形質が顕性か潜性か、(2)形質が関連する染色体の種類(常染色体や性染色体か)(3)家族の遺伝子型、(4)将来の世代における表現型の確率などが明らかになります。常染色体や性染色体に関連する疾患を持つ家族にとって、この情報は家族計画に欠かせないものとなります。
植物や動物の様々な種において、科学者たちは慎重にコントロールされた交配実験を用いて、表現型(形質)の遺伝を研究しています。例えば、一遺伝子雑種交配では形質の顕潜を、テスト交配では既知の顕性表現型を示す生物の遺伝子型(ホモかヘテロか)を調べることができます。
しかしながら、人間は倫理的にも現実的にも交配実験はできません。そのため人間の形質や病気がどのように遺伝するかを理解するために、研究者は家系図(系図、血統)を分析します。家系図には、ある形質が何世代にもわたって家族の間で受け継がれてきたことが示されています。交配に適用されるのと同じ原理を使って、すでに発生した生殖事象を分析することで、形質の遺伝率に関する情報を推測できます。
典型的な家系図では、四角が雄、丸が雌を表します。斜線の入った四角や丸は、関心のある形質の存在を示しています。行は世代を表し、ローマ数字で表示されることもあります。最古の世代が一番上の行を構成し、その後の各世代は別々の行になっています。各世代または行の中で、家族は左から右へと数字で表示され、その世代と位置によって参照されます。例えば、第1世代の2番目の人はI-2です。
2つの親を結ぶ水平線を婚姻線とよぶが、必ずしも結婚している必要はないです。婚姻線から下に伸びる垂直の降下線は、水平の兄弟線につながります。兄弟線を介して降下線でつながっている個体は子孫です。兄弟線で直接つながっていない個体は、婚姻線を介して家族に入りますが、前の世代の生物学的な子孫ではないです。
顕性形質は潜性形質とは異なる分布をしています。また、性染色体上の遺伝子で決まる形質と、常染色体(非性染色体)上の遺伝子で決まる形質では、遺伝の仕方が異なります。家族歴の中で形質の有無を調べることにより、家系図分析から形質の遺伝に関する情報を得ることができます。多くの疾患は複数の遺伝子に影響されますが、いくつかの疾患はメンデルの遺伝パターンを示します。これらの疾患については、家系図から疾患の遺伝や伝播のリスクに関する重要な手がかりを得られます。
常染色体上の遺伝子に起因する形質で、表現型に影響を与えるために2つの対立遺伝子のコピーを必要とするものを常染色体潜性遺伝といい、嚢胞性線維症、テイ・ザックス病、メープルシロップ尿症などがあります。これらの疾患を持つ人のほとんどは、その疾患を持たないものの原因となる対立遺伝子を持っているヘテロ接合の両親を持ちます。
このような保因者は、知らず知らずのうちに子供に病気を移す可能性があり、常染色体潜性遺伝の病気が顕性の病気よりも多い理由の一部となっています。常染色体の形質が顕性であるか潜性であるかは、家系図の世代を比較することでわかります。両親がどちらもその形質を持たなくても、子供がその形質を受け継ぎます。したがってこれは潜性です
<そばかすや多指症はヒトにおいて常染色体顕性形質で、表現型に影響を与える決定対立遺伝子が1つのコピーで十分です。ハンチントン病などの常染色体顕性遺伝は、片方の親が罹患している子孫の50%が罹患しています。これらの疾患の多くは、生殖年齢以降になってから症状が出てきます。これらの疾患は、知らず知らずのうちに罹患した親から子供が受け継ぐ可能性があり、家族歴を分析することの重要性が強調されています。両親がその形質を持っていても、子供の一人はそうではありません。潜性の親同士の交配では、一貫して潜性の表現型が得られるので、この形質は顕性です
。人間は44本の常染色体に加えて、2本の性染色体を持っています。これらの性染色体は、女性(XX)では相同ですが、男性(XY)では非相同です。性染色体によって決定される形質は性連鎖しています。ヒトの性連鎖形質のほとんどはX連鎖潜性です。女性にはY染色体がないため、男性だけがY結合型の形質を受け継ぐことができます。また、X染色体には800〜900個のタンパク質をコードする遺伝子があるのに対し、Y染色体には70〜80個の遺伝子があります。
X連鎖性遺伝形質には、血友病、筋ジストロフィー、赤緑色覚異常などがあります。男性はX染色体を1本しか持っていないので、X連鎖性遺伝の場合、ホモ接合でもヘテロ接合でもなく、ヘミ接合となります。男性は、原因となる潜性対立遺伝子を覆い隠す第二対立遺伝子を持たないため、女性よりも潜性のX連鎖性遺伝形質の影響を受けやすいと言われています。